■パイロット信号
TV や FM 放送にはパイロット信号という音声とは別の信号が含まれており、通常はチューナーやデッキ側に内蔵された MPX フィルターで除去するようになっていますが、様々な理由で録音したファイルにこのパイロット信号が乗ってしまっている場合があります。
その場合スペクトラム・アナライザーやスペクトログラム等で信号の周波数の状況を把握し、ピンポイントで除去します。

↑TV を録音したもの
↑FM 放送を録音したもの

 

■パラメトリック・イコライザー
パラメトリック・イコライザー(通称パライコ)は軸となる周波数を指定してその指定した範囲を増幅したり減衰したりするものです。
グラフィック・イコライザーが視覚的にとても分かりやすいのに対し、パライコは分かりにくく使いこなしが難しいです。
パライコを使いこなすカギは変動幅(いわゆる Q 値)を変えた時の挙動の違いの把握にあり、これはソフトによってかなり異なっています。
パライコは大抵の場合3つのパラメータを変動させるようになっています。

1. 軸となる周波数
2. 変動させる帯域幅(Q と呼ばれる)
3. 1と2で指定して変動させる帯域のゲイン

またパライコには大まかに2つの使用法があります。
1. 特定の周波数域だけを増幅または減衰させる(例:高域や低域のノイズ除去、特定の楽器の音色補正等)→ピーキング・タイプと呼ばれます
2. 特定の周波数より高いもしくは低い帯域を全て増幅または減衰させる→シェルビング・タイプと呼ばれます

パライコの概略は以上のようなもので大体どのソフト(※ハードウェアのパライコもあります)も共通しているのですが、挙動・仕様は各社各様でまちまちです。
ここではカセットテープや DAT を CD 化する際に FM のパイロット信号を取り除く場合を考えてみたいと思います。
例として Sound Forge 6.0 (市販アプリ)と Wave Editor TWE (フリーウェア)を取り上げます。
素材として分かりやすいのはホワイトノイズです。
ホワイトノイズはあらゆる周波数域を万遍なく含んでおり、Wave Gene のようなフリーウェアで簡単に作ることが出来ます。
以下のスクリーンショットはソノグラムにIT雑技団さんのフルーティー、スペクトラムに efu さんの Wave Spectra を使用しています。
どちらもフリーソフトながら非常に優れた素晴らしいソフトです。

 

■Sound Forge のパライコ
Sound Forge のパラメトリック・イコライザーには4種類のフィルターが搭載されています。

・Low-frequency shelf (指定したカットオフ周波数より下の周波数を減衰させるフィルター)
・High-frequency shelf (指定したカットオフ周波数より上の周波数を減衰させるフィルター)
・Band-pass (指定した周波数の範囲外を減衰または増幅させるフィルター)
・Band-notch/boost (指定した周波数の範囲内でV字形の刻み目を入れて減衰させたり逆に持ち上げたりするフィルター)

▼フィルターをかけていない状態のホワイトノイズ  

 

 

▼High-frequency shelf (指定した周波数域より高い成分を増幅/減衰するモード)にて 17kHz 以上を減衰させた場合の実例

■パラメータ
カットオフ周波数:17kHz
変動幅:0.1oct.
ボリューム:-60dB

■特徴
概ね目的は果たしていますが、よく見ると 14kHz 付近から 17kHz にかけて若干信号がブーストされており、精度的に少し問題があります
減衰のカーブもややいびつです

     

■パラメータ
カットオフ周波数:17kHz
変動幅:1.0oct.
ボリューム:-60dB

■特徴
よいです

     

■パラメータ
カットオフ周波数:17kHz
変動幅:2.0oct.
ボリューム:-60dB

■特徴
よいです

     

■パラメータ
カットオフ周波数:17kHz
変動幅:3.0oct.
ボリューム:-60dB

■特徴
よいです

     

■パラメータ
カットオフ周波数:17kHz
変動幅:4.0oct.
ボリューム:-60dB

■特徴
よいです

     

■パラメータ
カットオフ周波数:17kHz
変動幅:5.0oct.
ボリューム:-60dB

■特徴
よいです

     
●結論
・Sound Forge 6.0 で指定した周波数域より高い成分を減衰させるには、変動幅を 1.0oct. 〜 5.0oct. に設定しゲインを最低(-60dB)にする
・変動幅は 1.0oct. 〜 5.0oct. の間のどれを選んでも結果は同じになる



▼Band-notch/boost (帯域にV字形の刻み目を入れたり逆に持ち上げたりするモード)にて 19kHz を減衰させた場合の実例

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:0.1oct.
ゲイン:-60dB

■特徴
パーフェクトではありませんがまあこんなとこかという感じです
減衰させる帯域の周辺が若干ブーストされているのは×です

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:1.0oct.
ゲイン:-60dB

■特徴
見てのとおりです
全く使い物になりません

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:2.0oct.
ゲイン:-60dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:3.0oct.
ゲイン:-60dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:4.0oct.
ゲイン:-60dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:5.0oct.
ゲイン:-60dB

■特徴
上に同じ

     
●結論
・Sound Forge 6.0 で指定した周波数域を減衰させるには、変動幅を最低(0.1oct.)に設定しゲインを最低(-60dB)にする
・唯一使い物になる変動幅 0.1oct. の設定でも帯域の周辺がほんの少しブーストされてしまう

 

 

■Wave Editor TWE (YAMAHA) のパライコ
Wave Editor TWE のパラメトリック・イコライザーは3バンドのパラメトリックイコライザーで、低域、中域、高域の3つの帯域を独立して調整できます。
通常モードとは別にハイシェルビングフィルター、ローシェルビングフィルターのモードもあります。

▼TWE のパラメトリック・イコライザー  
←見てのとおり Low (低域)、Mid (中域)、High (高域)の3つの帯域に分かれています
Gain は下の Freq で指定した周波数を上げるのか下げるのか dB で指定します(±20dB)
Q は上の Freq で指定した周波数に対してどれぐらいの幅で上げ下げするかを指定します
入力できるのは0、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10の11とおりで小数点の入力はできません
(ただしバグで0.1の入力はでき、結果は1の場合と同じになります:左図参照)
Low (低域)で Q の値を0にするとローシェルビングフィルター(指定された帯域よりも低い部分をカットする)になり、High (高域)で Q の値を0にするとハイシェルビングフィルターになります
一般にパライコで Q とは変化させる帯域幅のことを指すが、この TWE では Q の値を大きくすると帯域幅が狭まるという妙な仕様になっています
なお上のグラフをマウスで直接ドラッグすることも可能です
適用するには左下の EQ ボタンをクリックします
TWE のパライコの特徴はリアルタイムでグラフが変動し結果を予測しやすいところにあります
一方ゲインの幅が狭く大きく持ち上げたり引っ込めたりしたい時には不向きかも知れません


▼フィルターをかけていない状態のホワイトノイズ  

 

 

▼19,000Hz の FM パイロット信号を除去する場合

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:10
ゲイン:-20dB

■特徴
帯域幅(Q)が逆数になっているようで分かりづらいです
しかも一番狭めた状態でも周辺の周波数にかなり影響を与えてしまっています
ピンポイントで特定の周波数だけを上下させたい用途には不向きです

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:9
ゲイン:-20dB

■特徴
影響を与えてしまう帯域がさらに広まっています

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:8
ゲイン:-20dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:7
ゲイン:-20dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:6
ゲイン:-20dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:5
ゲイン:-20dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:4
ゲイン:-20dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:3
ゲイン:-20dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:2
ゲイン:-20dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:1
ゲイン:-20dB

■特徴
上に同じ

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:0.1
ゲイン:-20dB

■特徴
上に同じ(1.0と全く同じ結果になります)

     

■パラメータ
中心周波数:19kHz
帯域幅:0
ゲイン:-20dB

■特徴
帯域幅を0にすると Q の値の表示が HSF になり、ハイシェルビング・フィルターになります
しかし見てのとおり指定した 19kHz よりはるかに低い 12kHz 付近から減衰が始まっており、しかも 22kHz 付近で急激にゲインが持ち上がるという困った仕様です
使い物にならないと言ってよいでしょう

周波数:19kHz、Q:0 (HSF)、ボリューム:-20.0dB
   
     
●結論
・Wave Editor TWE で指定した周波数域を減衰させるには、変動幅を最高(10)に設定しゲインを最低(-20dB)にする
・HSF (ハイシェルビング・フィルター)は使い物にならない

 

▼TWE の Q の値ごとのグラフ(リニアではなく対数表示になっており要注意!

Q の値を10にした場合
Q の値5にした場合
   
Q の値を1にした場合
Q の値を0にした場合



 

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