■オリジナル・アルバムが初めてCDで発売!

私は2018年4月に入ってから知ったのですが、何とデビー・ブーンの初期のオリジナル・アルバムが初めてCD化されて発売中です。特にファースト・アルバムは世界中でけっこう売れたのに何故CD化されないんだろう?と不思議に思ってはいました。ちょっと遅きに失した感はありますが、40周年に合わせてようやく再発・CD化されました。よくあることですが、主流でないアーティストは気付いたら入手困難なケースが多いです。見かけたら即買いが基本ですので、入手可能なうちに入手しましょう。今なら安いです。日本の感覚から言えばバーゲンプライスだと思います。


ジャケット表面 ジャケット裏面
内側

 

■タイトル: You Light Up My Life 40th Anniversary Expanded Edition
■アーティスト: Debby Boone
■媒体/パッケージ: CD1枚/デジパック
■レコード会社: Real Gone Music
■カタログ番号: RGM-0655
■発売日: 2017年12月8日

 

●感想

日本盤も Solid Records という会社から OTLCD-7714 というカタログ番号で発売されていますが、恐らく上記のUS盤に帯と日本語の解説を付けただけのものと思われます。US盤に歌詞カードは付属していませんでした。日本盤は買っていないので分かりません。
US盤にはアルバムの背景についての詳細な解説のブックレットがついています。(英文)マイク・カーブ本人による序文とThe SecondDiscというサイトのJoe Marchesという人の解説ですが、デビー本人にインタビューしたものに基づいているので興味深いです。
内容はオリジナル・アルバムの12曲に加えデビーがソロ・デビューする前の The Boone Girls 時代の音源がボーナストラックとして13曲収録されています。商業的には成功しなかった The Boone Girls ですが、びっくりするような美しい曲ばかりです。カーペンターズの影響が色濃いです。
肝心の音質ですが、TCM マスタリングの Ted Carfrae という人がマスタリングを担当していて非常によいです。アナログ盤よりかなり音圧が上がっていますが、極端ではなくオリジナルの音をよく再現していると思います。一度聴いた限りではオリジナル・マスター・テープを元にしていると思います。中低域が少しふっくらしています。When I Look At You の途中でほんの少し音揺れがある他は特に問題は感じられませんでした。リアル・ゴーンにこれらの音源はオリジナル・マスター・テープからかアナログ盤からなのか尋ねてみたところ、「テープからだ」という短い返答がありましたので、マスター・テープからデジタル化したものにほんの少し手を加えたものだろうと思われます。(オリジナル・マスターとは限りませんが、少なくともそれに近い世代のテープであると思います。)イコライジングも最小限な感じで、オリジナルに非常に近い音だと思います。ただ中型以上のスピーカーで聴くと高域と重低音が少しうるさく感じられるかも知れません。このファースト・アルバムでは行き過ぎないよう抑えられていますが、次作以降は前述の傾向が強まります。やはり音圧は上げすぎかも知れません。一部の曲ではヒス・ノイズが目立ち、曲はうるさいです。ですが、チェリーの作曲能力の高さは認めざるを得ませんよね。
元々このファースト・アルバムは You Light Up My Life の大ヒットを受けて急遽作られたものでした。このアルバム用に吹き込まれたのはジョー・ブルックスの3曲だけかも知れません。From Me To You、When The Lovelight Starts Shining Through His Eyes、Hasta Manana の3曲は The Boones として姉妹で過去に録音していたものです。


 

■Midstream (2nd) / Debby Boone (3rd)

■タイトル: Midstream / Debby Boone
■アーティスト: Debby Boone
■媒体/パッケージ: CD1枚/デジパック
■レコード会社: Real Gone Music
■カタログ番号: RGM-0693
■発売日: 2018年4月6日


●感想

セカンド・アルバム以降デビー・ブーンは多少のヒット曲は出したもののファースト・アルバムの時のような成功とは無縁になりました。その原因の一つが You Light Up My Life の作者でプロデューサーでもあったジョー・ブルックスとの絶縁とこの2作目の Midstream の商業的失敗だろうと思います。シングル You Light Up My Life は音楽史上に残るほどの巨大ヒットとなり、ファースト・アルバムもかなり売れました。結果的にたくさんの権威ある賞も受賞したため、ジョー・ブルックスの存在はデビーにとってなくてはならないものとなり、セカンド・アルバムのプロデュースと曲の提供も任されました。ジョー・ブルックスは曲作りにおいては天才的でしたが、女性の扱いには問題があったようで、結果的に4回の結婚・離婚をし、後年複数の女性から性的暴行の罪で訴えられました。最終的には2011年に自殺を遂げます。
デビーはニューヨークのスタジオでジョー・ブルックスと共にセカンド・アルバムの録音に取り掛かりましたが、音楽的方向性の違いやジョーがデビーの意見を無視したこと、ジョーが自分の映画 If Ever I See You Again のことばかり考えていたことなどから制作途中でジョーとの作業を打ち切り、プロデューサーをブルックス・アーサーに変更します。それで2作目の Midstream にはプロデューサーが二人いる訳です。「流れの途中」というタイトルもプロデューサーの変更のことを言っています。お仕着せの役割からデビー本人の意思を反映した作品への流れの途中という意味です。
You Light Up My Life の大ヒットの後のセカンド・シングルはこの Midsteam からの California でした。同じジョー・ブルックスの作品でプロデュースも彼が手がけています。凄くいい曲なのですが、結果はポップ・チャートで50位と今ひとつでした。(アダルト・コンテンポラリー・チャートでは20位まで上がりましたが)どうも契約の関係でジョー・ブルックスの作品でなければならなかったようです。彼女は次のシングルも当然ヒットするだろうと思っていましたが、それでもそれが California だと聞いて落胆したようです。曲の選択について責め立てたと述べています。「カリフォルニアという曲は好きじゃなかったわ。たくさんの人たちは好んだけど。私ならあの曲をレコーディングしようと選択することは絶対にしなかったわね。でも一旦スタジオに入ってそれに取り組み自分の解釈で歌っていると、このカリフォルニアやジョー・ブルックスの他の曲も楽しめたわ。」この California の不振が勢いを止めてしまったのか、次の God Knows はポップ・チャートで74位!デビーの落胆は想像に難くありません。これ以降ポップ・チャートではチャートインすらしなくなってしまいました。
馬が合わなかったジョー・ブルックスとの関係を絶ち、ブルックス・アーサーと満を持してサード・アルバムを作ります。ソロ・キャリアはこのアルバムからだと言わんばかりに、アルバム・タイトルも「デビー・ブーン」としました。
しかし商業的には2作目以上の不振となってしまいました。アルバムはチャートインすらしませんでしたし、出したシングルはカントリー・チャートで少しヒットしたに留まりました。
このサード・アルバムは当時の流行のディスコ・ナンバーも取り上げたりした意欲作ではありましたが、やはり最初のヒット曲の印象が強かったのか受け入れられなかったようです。しかし個人的にはやはりアルバム・ジャケットがよくないと思います。モノクロのデビーの写真が表紙なのですが、表情に笑みはなく、斜め前をキッと睨みつけています。裏面に至っては上下スウェット(?)のラフな格好で左足を前に出し、首を下に向けて浮かない表情、同じくモノクロです。これじゃ売れませんよね。女性、特にデビーのように容姿に恵まれた女性にはやはり笑顔が似合います。ただ、もしかしたら彼女の今までとは違うんだぞ、という決意の表れだったのかも知れませんけど。
下に写真を載せていますが、この時からしばらくデビーのアルバム・ジャケットからは笑顔が消えます。やはり最初に頂点に登りつめてその後売れないというのはつらい経験であったに違いありません。その後のインタビューでは自分は one-hit wonder であると自嘲気味に認めていますので、現在は吹っ切れているようですが。
デビーが最初に成功した基盤は恐らくアメリカの保守層だっただろうと思います。白人女性でアメリカ生まれ、クリスチャンで父親はあのパット・ブーンとなれば当然の流れです。だから彼女がこのアルバムでカントリー・ミュージックに接近したのは正しかっただろうと思います。彼女は子供の頃から歌手を姉妹グループとは言えやっていましたから、プロフェッショナルな側面も(当時まだ20代前半ながら)持ち合わせていました。そのあたりがこの3作目で軽めの曲に偏らなかった要因かな、と思います。この3作目の最終曲にも現れています。
でもこのアルバムでデビーが当時大流行のディスコ(根っこは黒人の音楽)に接近したことでもしかしたら白人保守層の反感を買ったのかな、というのは考えすぎでしょうか?結局デビーは支えてくれた基盤の支持する音楽に還って行きます。この後カントリー に傾き、それから Contemporary Christian Music に傾倒します。若くしていきなり大成功を収めてしまい、それまで一緒に活動してきた3人の姉妹も結婚によって活動が難しくなったりして、ソロとしてどの方向に進むべきなのか分からなくなったのかも知れません。自身も結婚・出産で多忙であったことも一因でしょう。いずれにせよ、2枚目の Midstream で勢いは止まってしまい、3作目の Debby Boone でほぼ表舞台から消えてしまった感があります。
これはアルバム2枚が1枚のCDに収録されていてお買い得です。欧米ではこうしたCDが昔からありますが、twofer(トゥーファー)と言うようです。ありがたいと思う反面アーティストはどう思うんだろうか?と思います。西洋人らしい合理的なやり方ですね。
なお残念ながらこのCDでは、When You're Loved、It Was Such A Good Day、Girl Don't Come においてマスターテープの劣化による音のよれが僅かに見受けられました。



 

■Love Has No Reason (4th) / Savin' It Up (6th)

■タイトル: Love Has No Reason/ Savin' It Up
■アーティスト: Debby Boone
■媒体/パッケージ: CD1枚/デジパック
■レコード会社: Real Gone Music
■カタログ番号: RGM-0694
■発売日: 2018年4月6日


●感想

4枚目と6枚目のアルバムのCD化です。あれ、5枚目は?彼女は4枚目の Love Has No Reason (1980年3月リリース)と同じ年に With My Song というクリスチャン・ミュージックのアルバムを父親のパット・ブーンのレーベル(Lamb & Lion)から出していますが、こちらは2008年にCD化されているので今回は見送られたようです。そういう訳でワーナーから出した最後の2枚のカントリー・アルバムが組み合わされて初CD化されました。両方ともケニー・ロジャースのプロデュースで有名なラリー・バトラーをプロデューサーとして迎え、本場ナッシュビルでの録音です。
この後彼女はCCM (Contemporary Christian Music) に走っていきますが、個人的にはカントリー路線のままでいて欲しかったな、と思います。CCM 以降は日本で取り上げられることも皆無になってしまいました。このCDの4枚目と6枚目のアルバムは日本でもLPが発売されていたのですが…彼女はソロ・デビューしてすぐ大ヒットを出してしまったため、方向性が定まっていませんでした。「私は一度もロックン・ローラーになろうと思ったことはないわ。メリサ・マンチェスターみたいな歌手が好きだったの。バーブラ・ストレイザンドのファンだったわ。リンダ・ロンシュタットも好きよ。」
4枚目の Love Has No Reason からは Are You On The Road To Lovin' Me Again がカントリー・チャートで1位という久々の快挙で、日本でもシングルカットされました。ラリー・バトラーのプロデュースにより、安心して聴いていられる出来となっています。
このCDには何故かシングルでしか聴けないレア曲がボーナス・トラックとして収録されています。特に See You In September の収録にはびっくり。この曲は日本でもシングルカットされていました。(今では全く見かけませんけど) 欲を言えば、California のシングル・ミックスも収録して欲しかったです。父親とびっくりすうような美しい曲をデュエットしていて、それも収録されています。声が別人のように聴こえます。当時のアメリカで上映されたマチルダというボクシングをする雌のカンガルーを主題にしたコメディー映画の音楽用として吹き込まれたようです。
なお、このCDでは Love Put A Somg In My Heart において若干の音のヨレが認められますが、他は概ね良好です。でもボーナストラックの In Memory of Your Love だけは所謂盤起こしに聴こえます。マスターテープが行方不明?凄く感動的な曲(特筆すべきはドラムス!)だけに残念ですね。もしかしたら See You In September 以上の名曲かも知れません。キム・カーンズの Paris Without You も素晴らしいと思います。いつもどおり丁寧に歌い上げています。こういう曲に感動するのは本当のデビーファンだけかもですが。

デビー・ブーンはあのパット・ブーンの娘として4人姉妹で Boone Girls、The Boones として70年代初めからレコードを出したり父とツアーに出たりしていましたが、商業的成功には至りませんでした。そんな中たまたまソロで出したシングルが大当たりしてしまって、あまりに突然大成功してしまったためにその後の活動を狂わされてしまった、というのが今回の40周年を記念しての初CD化を振り返ってみての感想です。デビーにとって You Light Up My Life が長い間トラウマとなっていただろうと思われます。今でもコンサートの際は必ず歌うようですが、本音は歌いたくないでしょう。ソロデビューであれだけの大成功を収め、それっきりでその後全く売れないという冷酷な現実は長い間彼女を傷つけ、苦しめてきたに違いありません。近年はジャズを歌っています。もうポップに帰ってくることはないのでしょうか?
売れなかったセカンド・アルバム以降はともかく、ファースト・アルバムは全米チャートで6位まで上がり、一般にも支持されていたのに40年間一度もCD化されなかったというのはびっくりします。ある意味音楽業界から無視され続けていたとすら言えると思います。これをきっかけに彼女の過去の曲が見直されるとよいですね。



 

 

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