■2014年8月20日4度目のリリース!
これは元々英国で EMI から1989年にリリースされた編集アルバムで、英国では LP と CD の両方が発売されました。日本では1989年11月8日に CD だけがリリースされました。当時の東芝 EMI の PASTMASTERS という廉価版 CD の一つとして税込¥1,970で販売されたのです。その頃オリビアの日本盤 CD はリリースが少なかったことや、値段が安かったこと、イフ・ノット・フォー・ユー、カントリー・ロード、愛しい貴方、そよ風の誘惑、プリーズ・MR.プリーズ、レット・ミービー・ゼア、愛の告白と初期のヒット曲を網羅していたことからそこそこ売れたようで、その後1995年11月29日に再リリース、1998年8月26日には再々リリースされました。比較的マイナーな編集盤としては異例のことです。その後長い間絶版でしたが、東芝 EMI が消滅した後の2014年8月20日に何と16年ぶり4度目のリリースがワーナー・ミュージック・ジャパンによって為されました。今回も廉価版 CD シリーズの一つとして企画され、価格は今までで最安の¥1,404!「安っ!」って思わず口に出してしまいそうなバーゲン価格です。買いそびれた人はこの機会をお見逃しなく!
■スーパー・ベスト 1300
【完全生産限定盤】
ワーナーミュージック・グループが期間限定でリリースした様々なアーティストのベスト盤50タイトルが¥1,300(本体)+税
期間限定:2014年8月20日~2014年11月28日
今回の Early Olivia はこの「スーパー・ベスト 1300」シリーズの一つです。
■音質・音圧
近年リリースされたオリビアの CD はどれも極端な音圧上げが為されており、低音・高音をブーストした派手な音になっていますが、この Early Olivia は CD が普及し始めた頃の自然なマスタリングのままです。2014年現在でこんなマスタリングの CD が再発とは言え新品で買えるというのは驚きですね。このアルバムには2つの大きな側面があり、一つは「そよ風の誘惑」までのヒット曲プラスα、つまりアルバムタイトルそのままの初期代表作という側面と、もう一つは LP 時代を彷彿とさせる自然なマスタリングという側面です。「最近の CD の音に違和感を覚える」、「レコードプレイヤーは持ってないがあの音をもう一度聴きたい」というファンにはうってつけのアルバムです。2014年現在新品でこの音を聴けるというのは奇跡に近いと思います。もちろん本当は当時のアルバムやシングルをレコードプレイヤーで聴くのが一番良いのですが、中々そこまで踏み切れない人がほとんどではないでしょうか。そうしたファンにとって今回のリリースは福音のようなものだと思います。ちなみに1989年の初回リリースと2014年今回のリリースとで音は全く同じです。
昔の CD と比較して一番の違いはダイナミック・レンジです。ダイナミック・レンジとは一番小さい音と一番大きい音の比率で、値が大きいほど録音としては優秀ということになります。ただし曲によって静と動の対比の大きさには差がありますので一概には言えません。あくまで目安として考える必要があります。ダイナミック・レンジを計測するソフトとして Dynamic Range Meter がよく知られています。これを使って2000年以降の代表的な編集アルバムと Early Olivia を比較してみましょう。
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
ダイナミック・レンジ(大きいほど優秀) |
2001 |
|
Magic: The Very Best of Olivia Newton-John |
US |
|
2002 |
|
20th Century Masters - The Millennium Collection |
US |
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2002 |
|
The Definitive Collection |
JP |
|
2004 |
|
Love Songs |
JP |
|
2005 |
|
Gold |
US |
|
2010 |
|
40/40 The Best Selection |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia |
JP |
|
Early Olivia のダイナミック・レンジが広いことが分かると思います。しかし編集アルバムの場合、収録曲によっても差が出る可能性があります。そこで曲ごとにも検証してみましょう。
|
Audacity というフリーの波形編集ソフトで検証します。青い部分の波形が音声部分です。音量の大きい部分は上または下に波形が伸びます。従って波形を見ればダイナミック・レンジの大きさも分かる訳です。全体が青い波形で埋め尽つくされているようなものは大きな音量ばかりでダイナミック・レンジの小さいうるさい音源ということになります。音源は基本的にステレオですので上下2チャンネルに分かれています。上段が左チャンネル、下段が右チャンネルです。タイトルの下にはピークレベルをパーセント表示で載せています。(EAC による)デジタルの場合ピークレベルは 100% が望ましいのですが、オリジナル LP の場合曲ごとにピーク値は異なります。ここをどう考えるかは難しい問題ですが、以下の比較では CD については収録データをいじらずそのままで、LP については曲のピーク値を 100% に、つまり 0dB にノーマライズしました。 |
リマスターで何が行われたのでしょう?多くの音楽ファンはリマスターで音質が向上すると信じて疑いません。実際に行われたのはイコライジングとコンプレッサーによる音圧上げです。この Early Olivia に収録されている曲は元々アナログの録音機で磁気テープに記録されました。この時代のマスタリングは平均60ぐらいの音量の曲中に突然80のピークが瞬間的に入るといったことが普通にありました。こうした音源をそのまま CD にすると元気のない音に聴こえがちなため、極端な一瞬のピークをなくして平均的に同じぐらいの音量になるよう調整したのです。これをさらに極端に行うと今主流の大音圧 CD が出来上がる訳です。ダイナミック・レンジを潰してしまうんですね。
それでは収録曲ごとに検証してみましょう。
1. If Not For You
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2003 |
|
The Definitive Collection
99.6% |
JP |
|
2005 |
|
Gold
100% |
US |
|
2010 |
|
40/40 The Best Selection
100%
|
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
97.3% |
JP |
|
1971 |
|
Olivia Newton-John (Original LP)
100%
|
UK |
|
2000年以降の CD がいかに酷いかよく分かると思います。特に2010年の 40/40 は病的ですね。Early Olivia がオリジナルの LP に近いこともよく分かります。LP は 24bit/192kHz で取り込んだものにピーク値 0dB のノーマライズ処理したものです。CD では Gold のみやや違った音色になっています。
2. Love Song
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
1992 |
|
Twin Best Now
86.2% |
JP |
|
1994 |
|
48 Original Tracks
96.2% |
UK |
|
2004 |
|
The Best of Olivia Newton-John
95% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
96.2% |
JP |
|
1971 |
|
Olivia Newton-John (Original LP)
100% |
UK |
|
この曲は編集盤にあまり収録されないので90年代の CD と比較しましたが、Early Olivia 自体が元々89年のアルバムなのでほとんど差が出ませんでした。波形は LP と似通っていますが、実際の LP では他の曲より低いレベルで収録されているため聴感上ではかなり異なった印象になります。なお、2004年の The Best of Olivia Newton-John は元々1998年の EMI 企画の編集盤ですので音圧は比較的自然になっています。
3. What Is Life
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2003 |
|
The Definitive Collection
97.9% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
99.9% |
JP |
|
1972 |
|
Olivia (Original LP)
100% |
UK |
|
この曲は2003年に発売された The Definitive Collection に収録されていました。これは元々イギリスで企画された編集盤のようで、日本盤は Make A Move On Me を Jolene に差し換えてリリースされました。その後2005年にも廉価で再発されています。
この曲は2000年以前の編集盤にはよく収録されていたのに最近はやや影が薄いようです。イギリスで小ヒットを記録したのみですので仕方がないのかも。音圧は一目瞭然で、 The Definitive Collection がいかに酷いかよく分かると思います。
4. Everything I Own
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
1990 |
|
Best Now
99.6% |
JP |
|
1992 |
|
Twin Best Now
95.1% |
JP |
|
1994 |
|
48 Original Tracks
91.6% |
UK |
|
2004 |
|
The Best of Olivia Newton-John
90.4% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
84.7% |
JP |
|
1972 |
|
Olivia (Original LP)
100% |
UK |
|
この曲も2000年以降はあまり収録されないので古い CD と比較してみました。やはり昔の CD はどれも音圧的には正常です。
5. The Air That I Breathe
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
1992 |
|
Twin Best Now
89.4% |
JP |
|
1994 |
|
48 Original Tracks
100% |
UK |
|
1996 |
|
I Honestly Love You
98% |
HOLLAND |
|
2004 |
|
The Best of Olivia Newton-John
97.7% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
100% |
JP |
|
1975 |
|
Have You Never Been Mellow (Original LP)
100% |
UK |
|
この曲も2000年以降はあまり収録されないので古い CD と比較してみました。オランダの I Honestly Love You だけが音圧が高いです。
6. Me And Bobby McGee
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
1992 |
|
Twin Best Now
97.4% |
JP |
|
1994 |
|
48 Original Tracks
97.4% |
UK |
|
2004 |
|
The Best of Olivia Newton-John
96.8% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
97.4% |
JP |
|
1975 |
|
Olivia Newton-John (Original LP)
100% |
UK |
|
この曲も2000年以降はあまり収録されないので古い CD と比較してみました。やはり昔の CD はどれも音圧的には正常です。
7. Music Makes My Day
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
1992 |
|
Twin Best Now
81.8% |
JP |
|
1994 |
|
48 Original Tracks
69.6% |
UK |
|
1996 |
|
I Honestly Love You
88.9% |
HOLLAND |
|
2014 |
|
Early Olivia
69.6% |
JP |
|
1974 |
|
Music Makes My Day (Original LP)
100% |
UK |
|
この曲も2000年以降はあまり収録されないので古い CD と比較してみました。オランダ盤の音圧が高いのはいつもどおりです。どの CD もピークレベルが抑えられているので LP を 100% ノーマライズしたのは不適当だった気がします。
8. Long Live Love
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2003 |
|
The Definitive Collection
97.9% 2:43.9 |
JP |
|
2010 |
|
40/40 The Best Selection
100% 2:48.4 |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
99.9% 2:46.5 |
JP |
|
1974 |
|
Long Live Love (Original LP)
100% 2:45.5 |
UK |
|
やや波形の長さが不揃いなのが気になったので、この曲のみ収録時間も載せました。実際には 2:45 前後の長さなのですが、最後の処理の関係でバラついています。2003年の The Definitive Edition も随分酷いですが、最悪なのは 40/40 です。「何だこれは!」と思わず叫んでしまいそうな最悪のマスタリングですね。やはり元の LP に近いのは Early Olivia です。
9. Banks of The Ohio
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2003 |
|
The Definitive Collection
97.9% |
JP |
|
2005 |
|
Gold
100% |
US |
|
2014 |
|
Early Olivia
99.9% |
JP |
|
1971 |
|
Olivia Newton-John (Original LP)
100% |
UK |
|
Early Olivia の自然なマスタリングが際立っています。ただ CD 3枚を聴き比べると Early Olivia の音量が低く感じられるのは否めません。
10. Take Me Home Country Roads
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2003 |
|
The Definitive Collection
99.1% |
JP |
|
2010 |
|
40/40 The Best Selection
99.1% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
80.4% |
JP |
|
1974 |
|
Music Makes My Day (Original LP)
100% |
UK |
|
この曲を目当てに Early Olivia を買う人は多いのではないでしょうか。アナログ盤のあの音が焼きついている人は断然 Early Olivia ですね。2000年以降の CD は音圧上げすぎですので要注意。Early Olivia はオリジナルの LP に近いことが上の波形からよく分かります。
11. Help Me Make It Through The Night
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
1992 |
|
Twin Best Now
77.3% |
JP |
|
1994 |
|
48 Original Tracks
84.7% |
UK |
|
1996 |
|
I Honestly Love You
94.5% |
HOLLAND |
|
2014 |
|
Early Olivia
84.7% |
JP |
|
1971 |
|
Olivia Newton-John (Original LP)
100% |
UK |
|
この曲も2000年以降はあまり収録されないので古い CD と比較してみました。いつもどおりオランダ盤の音圧がやや高いことを除けば全体的に自然なマスタリングの CD ばかりです。
12. If You Love Me
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2001 |
|
Magic: The Very Best of Olivia Newton-John
98.8% |
US |
|
2005 |
|
Gold
100% |
US |
|
2010 |
|
40/40 The Best Selection
100% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
98.3% |
JP |
|
1974 |
|
First Impressions (LP)
100% |
UK |
|
2000年以降の CD は酷いです。ただ基本的な音色はどれも大差なく、単に音圧がいじられただけという印象を受けます。この曲の人気はアメリカがやはり圧倒的なのかな?
13. Have You Never Been Mellow
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2001 |
|
Magic: The Very Best of Olivia Newton-John
85.1% |
US |
|
2002 |
|
20th Century Masters - The Millennium Collection
85.1% |
US |
|
2003 |
|
The Definitive Collection
99.3% |
JP |
|
2004 |
|
Love Songs
97.7% |
JP |
|
2005 |
|
Gold
100% |
US |
|
2010 |
|
40/40 The Best Selection
99.3% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
93.4% |
JP |
|
1975 |
|
Have You Never Been Mellow (LP)
100% |
UK |
|
波形で目立つのが The Definitive Collection と 40/40 です。実際に聴いてもこの二つの音が大きいです。Early Olivia は2000年以降の CD に比べるとはっきり音が小さいですが、波形で見るとオリジナルの LP に近いことがよく分かります。
14. Please Mr. Please
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2001 |
|
Magic: The Very Best of Olivia Newton-John
83.1% |
US |
|
2002 |
|
20th Century Masters - The Millennium Collection
83.1% |
US |
|
2005 |
|
Gold
100% |
US |
|
2010 |
|
40/40 The Best Selection
100% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
97.9% |
JP |
|
1975 |
|
Have You Never Been Mellow (LP)
100% |
UK |
|
際立って酷いのが Gold と 40/40 です。Early Olivia はオリジナルの LP に近いです。
15. Let Me Be There
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2001 |
|
Magic: The Very Best of Olivia Newton-John
100% |
US |
|
2002 |
|
20th Century Masters - The Millennium Collection
100% |
US |
|
2005 |
|
Gold
100% |
US |
|
2010 |
|
40/40 The Best Selection
100% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
84.0% |
JP |
|
1974 |
|
Music Makes My Day (LP)
100
% |
UK |
|
40/40 の音の大きさは病的です。Early Olivia がオリジナルの LP に近いです。
16. I Honestly Love You
リリース年 |
ジャケット |
タイトル |
リリース国 |
波形(青色の面積の大きいものは全体に音圧が高い) |
2001 |
|
Magic: The Very Best of Olivia Newton-John
100% |
US |
|
2002 |
|
20th Century Masters - The Millennium Collection
100% |
US |
|
2003 |
|
The Definitive Collection
100% |
JP |
|
2005 |
|
Gold
99.9% |
US |
|
2010 |
|
40/40 The Best Selection
100% |
JP |
|
2014 |
|
Early Olivia
96.7% |
JP |
|
1974 |
|
Long Live Love (LP)
100% |
UK |
|
40/40 は冒頭からヒスノイズが目立ちます。それでも他の曲に比べると音圧上げを抑えたのかな?と思えます。波形がオリジナル LP に近いのはいつもどおり Early Olivia です。
■結論
Early Olivia はオリジナルの LP に比較的近い音を CD で実現しており、近年の「音圧戦争」と無縁の音を2014年現在非常に安価に提供しています。未入手の方はお早めに!
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