ゲオルギー・イワノヴィッチ・グルジェフ(左写真)は1870年前後にアルメニアのアレクサンドロポルで生まれ(生年不詳)1949年にフランスでその生涯を閉じた。
アルメニア人とギリシア人の混血である。

彼は一般に「神秘思想家」と紹介されることが多いのだが、どのような人物であったのかを手短に述べるのは難しい。
彼が属していると看做されているオカルティズム、神秘主義、エソテリシズム、宗教、超自然現象、音楽、神聖舞踏等の分野は、日本では例のオ○○事件の後公に口に出しにくい状況にあり残念だ。
しかし、昔から心霊現象、UFO、古代文明といった事柄は一般人の間でも人気が高く、超自然的なものへの関心=アブナいという短絡的な思考はバカげていると思う。(ちなみに私自身はいかなる宗教団体および類似の集団とも関係はないが...)

実際のところグルジェフは、あらゆることを知っておりあらゆることができたスーパー・マンのような人物だったのではないかと思われる。
彼には弟子がたくさんいてたくさんの本が書かれているが、信じ難いようなエピソードで満ち溢れている。
まさに存在そのものが「神秘」であったと言ってよいだろう。

一般に接近可能な彼の思想・哲学は大きく2つあり、一つは彼自身の著した3冊の本(正確には4冊だが、彼が後生に残そうと意図的に著したのは3冊)であり、もう一つは弟子のThomas de Hartmannを通じて世に残した音楽である。
特に著書の一つ(彼自身は基本的に著述家ではないのだが、特定の目的の為後半生を著述に捧げた)である"Beelzebub's Tales To His Grandson"は本当に驚くべき内容で、日本語訳も発売されている(邦題「ベルゼバブの孫への話」平河出版社)ので興味のある方はぜひ一読をおすすめする。

彼の根本的な主張は、人類の生存形態が客観的に見てあまりにも異常なので多少なりとも是正したい、ということではないかと思う。
個人的に興味深い彼の考えは、科学に関するものだ。オクターブの法則や放射・発散の考え方、あらゆるものが「創造の光」という序列に基づいた起原を持つ、という発想等それまでに聞いたこともなかった理論は本当に刺激的である。(彼自身は、自分の理論・実践が遠い古代から特定の小集団に受け継がれてきたものを収集したものであり、それを伝えている、という立場をとっていたようだ)

書物に関してグルジェフ自身は"Beelzebub's Tales To His Grandson"を最初に読むように、と主張していたようである。
恐らく「好ましからざる輩」を排除する目的ではないか、と思われるが真意のほどは定かではない。
個人的には、元弟子の P.D. Ouspensky が書いた"In Search of the miraculous"が分かりやすくて入門用にも適していると思うが、その思想の張本人が"Beelzebub"を最初に読むように、と言っているのだからそれに従った方が賢明なのだろう。("Miraculous" は理論的側面に偏っているが、現状ではこの分野は軽視されすぎているように思える
個人的に興味を覚えたことの一つは、彼がチベットに注目していたことである。
チベットは2004年末現在でも世界の秘境という印象がここ日本ではある。
中国に占領されてから何十年も経つが、今はどうなっているのだろうか?
グルジェフによると、チベットは四方を険しい高山に囲まれた地形の為歴史的に他文化の悪影響を受けずに近年まで存在したきた、とのことである。
"Beelzebub's Tales To His Grandson"にそのことが記述されている。
鎖国時代のチベットには何人かの外国人が潜入しており、面白いことに書物の形でその印象を著述している。
我が国でも河口慧海や多田等観の本が知られている。

 
↑魔術師のようなグルジェフ

鎖国下のチベットへの潜入者たちが口を揃えて記述していることの一つに、当時のチベットには気候を統御できる行者がいた、ということである。グルジェフがこのことについて直接言及しているのを聞いたことはないが、これは彼の主張していた「大気」に関連しているように思う。
彼によると、この世のあらゆるものは「放射しており」、人間にも固有の放射が存在している。なぜ全てのものが放射しているのか、というとこの世のあらゆるものは物質変換のために存在しているからであるらしい。
人間の大気を構成する物質は惑星の大気中の物質と関連しあっているようで、このことを知った古代人が気候を統御する術を見つけ出し、それがチベットの行者にも伝わったのだろう。

なお、"Beelzebub"には「宗教」という独立した章があり、その中で仏教の奥義を伝承してきた秘密の7人の集団についての興味深い記述が見られる。この秘密の7人の集団は何千年も前にインドに出現した「天からの本物の使者」である聖クリシュナカルナによって結成され、その後同様な「使者」である聖仏陀が現れた時その教えが本質的に聖クリシュナカルナの教えと矛盾しないばかりかその時代により適した教えであると判断し、仏陀の信奉者となった。その後同様な「使者」である「聖ラマ」(恐らくツォンカパのことではないかと思われるが、ひょっとしたらミラレパかパドマ・サンバーバもしくは他の聖者かもしれない)がチベットに現れた時、同じくその教えが本質的に聖仏陀の教えと矛盾しないばかりかその時代・地域により適した教えであると判断し、聖ラマの信奉者となり、その後チベットに20世紀初頭まで存在していたとのことだ。
↑犬猫とくつろぐグルジェフ
 

1903年にヤングハズバンドに率いられたイギリス軍が地形的に侵略不可能と言われていたチベットに侵攻し、その過程で流れ弾が偶然7人集団の指導者に当たってその僧侶が死亡してしまった。
残された6人は最終的な奥義伝授を受けていないうちに不意にその指導者を失って慌てふためき、自暴自棄な行動に出た。
つまり自分たちの持つ特殊な「放射」を亡くなったその指導者の遺体に三日三晩注ぎ続け、そうすることでその指導者の精神と連絡を取ろうとしたのである。
この死者との交信には特殊な事前の準備と条件が必要で、そのことをこの6人の僧侶たちは知っていたのだが、指導者の死があまりにも突然だったため仕方なく前述の方法に望みをかけたのだった。
がしかし事前の準備がなかったために彼らの交信術は期待した結果を生まず、「特殊な放射物」だけが指導者の遺体に無秩序に蓄積され、また偶然その儀式を執り行っていた地域の上空に強力な雷雲があったため、この二つの物質は当然のごとく物理的な接触を、つまり凄まじい落雷とそれにともなう大爆発が発生し、残されたこの6人の秘教伝導者も亡くなってしまった。
(その爆発は1平方キロメートル内の全てのものを粉々にするほど強力だったらしい)

グルジェフはダライ・ラマを頂点として僧侶に実権があったチベットの社会を「秘教的文明」と捉えていたようで、地球上ではかなりまともに近い社会・国家と考えていたようだ。
"Beelzebub"にはイギリス軍に侵攻される直前のチベットが、仏教への理解度と修行への渇望の度合いに従って形成された社会で、「或る者たちは既に(クンダバッファー器官の特性の結果からの)解放を達成しており、他の多くの人々も達成への途上にあり、たくさんの人々がいつかはこの達成の道に到達しようと夢見ていた」と記している。
クンダバッファー器官云々というのは"Beelzebub"の創作だが、さまざまな潜入記を読むとこの記述があながち的外れでないことが分かる。
アレクサンドラ・デビッドニールの書物には、特定の僧院で非常に特殊な訓練が行われていたことが書かれている。
例えば「ルンゴム」と呼ばれる特殊な走り方があり、その走法だと非常に長い距離を物凄い速さで長い間疲れることなく走ることができるのだが、それを実行するには特殊な訓練を行い一定のトランス状態になることが要求される。
そのトランス状態を達成するには、特定の呪文を唱えその音節に合うリズムで歩行し、同時に特殊な呼吸法を行わなければならない。
仏教だけでなくこうしたことも僧院で教えられていた特殊な社会がチベットだったのである。
 
↑旅行中のグルジェフ

話は変わるが、人間のタイプの分類に「エニアグラム」という図形が用いられることがある。
一般にもよく知られているこの図形は、実はグルジェフによってもたらされたものである。
現在インターネットで「エニアグラム」を検索すると山ほどヒットする。
そのほとんど全ては性格分析・人間のタイプに関するページである。
グルジェフが知ったら大笑いしたことだろう。いや、多分彼のことだからこうなることを予測していたかもしれない。

日本で「エニアグラム」というものが一般に知られるようになったのは、多分1981年〜1982年頃のことだろうと思う。
(私自身もその頃知った。)
無論知っていた人はそれ以前にもいただろうが、多分ほんの一握りの人たちであったと思われる。

「エニアグラム」というのは左のような図形のことで、G.I.グルジェフによって西欧世界にもたらされた。
グルジェフがもたらさなかったら、多分今でもどこかの秘教グループの間で保持されていたことだろう。
一般的に知られるようになったのは、グルジェフの元弟子のP.D.ウスペンスキーの著作"In Search of the Miraculous"によってであると思われる。1949年のことである。

"In Search of the Miraculous"は実際にはウスペンスキーの著作というよりはグルジェフの講義録で、大半がグルジェフの言葉で占められている。この本が日本で「奇蹟を求めて」として平河出版社から発売されたのが1981年のことなのである。
(浅井雅志氏の翻訳になるこの書物は今でも大きな書店に行けば入手可能と思われる)

エニアグラムと性格類型論を結び付けた張本人は Oscar Ichazo という名のボリビア人らしい。
その後 Don Richard Riso というアメリカ人心理学者によって、一般にも爆発的に知られるようになったようだ。
だがウスペンスキーの著作を読めば分かるようにエニアグラムというものは元々性格類型学とは何の関係もない
本来は秘教、エソテリシズム、神秘主義といった分野のものであり、一般社会とは無縁であるはずのエニアグラムがこのように大衆的人気を集めるというのは大変興味深い。

P.D.ウスペンスキー(右写真)の「奇蹟を求めて」は、前述のとおり実質的にグルジェフの講議集であり、その中でエニアグラムについて触れている箇所がある。
それによると、エニアグラムはこの宇宙の基本法則である3の法則と7の法則の構造を示す象徴である。
なぜ Oscar Ichazo がこれを(彼はエニアグラムではなく、エニアゴンと呼んでいたようだが・・・)性格類型論と結び付けたのかはよく分からないが、結果としてその理論はアメリカ大陸の人々の心を捕らえるのに成功したようだ。
アメリカは現時点において最も影響力のある国家なので、性格類型論と結び付けられたエニアグラムは今や世界中に広まっている。
グルジェフ自身はエニアグラムの起原についてはっきり述べなかったにもかかわらず、多くのエニアグラム関連のWEBサイトには「2000年以上前に古代オリエントの地で発祥した」とか「古代ギリシアに起原を持つ」とか「5000年におよぶ口伝として中近東に伝えられた」とか「2000年前のアフガニスタンに起原を持つ」等と書かれており笑ってしまう。
今ではビジネスとも結び付けられているようで、その急速な大衆化はまるで"Beelzebub"を読んでいるようである。
"Beelzebub"には、地球上であらゆる時代にさまざまな教えがすぐ「新興の」輩によって原形をとどめないほどに歪められ、オリジナルと正反対のものへと変化してゆくことが繰り返し述べられている。

3の法則とは、あらゆる現象が能動的力、受動的力、中和的力の3つから成り立つ、というもので、この考え自体は目新しいものではない。
7の法則とは、グルジェフによるとこの宇宙は振動から成り立っており、その振動を司る法則が7の法則であるとのことだ。
"Beelzebub"ではこの法則について繰り返し述べられていて、独立した章まで割り当てられている。
興味深いのは、何千年か前に月に最終的に大気が形成されたため地球上に強風が吹き荒れた時期があり、その風によってそれまでアジア大陸上で隆盛を誇っていた二つの巨大国家のティークリアミッシュとマラルプレイスィーが砂に埋もれた、というくだりだ。
ティークリアミッシュはカラ・クーム砂漠となり、マラルプレイスィーはタクラマカン(著書ではゴビ砂漠と書かれている)砂漠となったのだが、マラルプレイスィーの住人は東へ移動し最終的に現在の中国の祖先となった。その頃双児の王子がその集団の中におり、彼らが7の法則を再発見した、と記述されている。
当時は「九重性の法則」と呼ばれていた、と書かれており大変興味深い記述である。

先に述べたP.D.ウスペンスキー(左写真)の「奇蹟を求めて」には、最後の晩餐がイエス・キリストによって行われた魔術的な儀式だったとか、人間の摂取する食物は通常の食物と空気と印象の3種類であるとか、興味深い記述がたくさんある。
もちろん3の法則と7の法則についても詳しく述べられている。
興味を持たれた方はぜひ一読をおすすめする。
ただしグルジェフの主張するように"Beelzebub's Tales To His Grandson"をまず読んだ後で!

また、グルジェフの音楽は比較的容易に入手できるので、興味を持たれた方は CD を買って聴いてみられてはいかがだろうか?(さまざまなアーティストが出している)
リリースされているのは大半がピアノの演奏で、なかなか印象深い曲も多い。
ちなみにグルジェフ自身のハーモニウム演奏が収められた CD も販売されていて、彼の肉声や貴重なカラー動画も見ることができる。

 

広告 [PR]  再就職支援 冷え対策 わけあり商品 無料レンタルサーバー